The Golden Striker / Ron Carter

 Ron Carterは日本でとても人気のあるベーシストだ。確かに大学教授のような風貌で、服装もオシャレな長身の黒人であり、ウッドベースを片手にアコースティックジャズを演奏する姿はとても絵になる。また、Miles Davisバンド出身というブランドも日本人好みだろう。
 一方で、コアなジャズファンの一部からは辛辣な評価をくらっているのも事実。その理由はウッドベースらしからぬ電気的な音色と、ピッチだ。本アルバムを聴くと、前者の音色はややアコースティックな路線に戻りつつあるのかな、と感じる。あまり電化する時代でもないだろうとRon Carter本人も感じているのかもしれない。後者のピッチは相変わらず。まあモダンジャズに第一に求められているのは正確なピッチではないのは事実だし、McLeanもピッチは微妙だったりするし、特にこの人のように40年以上活躍しているジャズマンに対してピッチをあげつらうのも野暮という気はするので、僕はそれほど気にしていない。
 Ron Carterはそうしたマイナス評価を覆す決定的な魅力があって、それは何と言ってもそのモダンかつ知的なウォーキングベースラインだ。これは本当に素晴らしくて、単なる4ビートのラインでありながら、おおっと引き込まれる瞬間がいくつもある。
 本作はMulgrew Millerのピアノ、Russell Maloneのギターによるトリオアルバム。ドラムやホーン、パーカッションがないのでとても落ち着いた印象になっており、じっくりと三人の名人芸を味わうことができる趣向になっている。特に良いのはタイトル曲でもあるJohn Lewisののほか、アランフェス協奏曲が良い。Herbie HancockTony Williamsと演奏していた自作曲<A Quick Sketch>やなどを再演しているのも嬉しいところ。
 Ron Carterのアルバムは、時として「ほら、こうしたら粋だろう?」みたいなスノビズムが鼻につきすぎる面がある。本作もまあそういうところがない訳じゃないんだけど、落ち着いた編成がそうした面を良い方向に和らげて、抵抗なく聴けるアルバムになっていると思う。

Golden Striker

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